相続不動産を3,000万円で売却|購入価格2,000万円でも全額を取得費にできない?
相続不動産を3,000万円で売却した場合の手取り額を、条件別に比較するシリーズです。
最終第4話では、親が購入したときの売買契約書が見つかり、土地と建物それぞれの購入価格を確認できるケースを取り上げます。
今回の購入価格は合計2,000万円です。ただし、2,000万円全額をそのまま売却時の取得費として差し引くわけではありません。
土地は原則として減価償却しませんが、建物は時間の経過や使用による価値の減少を反映し、減価償却費相当額を取得価額から差し引きます。
今回の条件では、減価償却後の取得費は14,420,000円、税金まで考慮した概算手取りは25,985,481円、約2,599万円です。
第1話と同じく特別控除は使いません。今回は「取得費を5%で計算する場合」と「購入資料を基に実額で計算する場合」で、手取りがどう変わるのかを比較します。
今回の比較条件
・個人の相続人1名が、親から土地と建物を相続
・親は25年前に新築の木造戸建てを自宅として購入
・購入時の売買契約書があり、土地と建物の価格内訳を確認できる
・購入価格合計 20,000,000円
・土地価格 12,000,000円
・建物価格 8,000,000円
・建物は木造・非業務用の自宅
・取得から売却までの経過年数は25年
・1年未満の端数はない
・相続後ほどなく売却し、その期間も上記25年に含める
・土地と建物を第三者へ合計30,000,000円で売却
・仲介手数料 1,056,000円(税込・上限額を支払う前提)
・印紙税 10,000円(紙の契約書を作成し、軽減措置の対象となる前提)
・購入時の仲介手数料、登記費用、不動産取得税、設備費、改良費などは今回の比較を分かりやすくするため取得費へ加算しない
・売却時の登記費用、測量費、解体費、残置物撤去費なども計算から除外
・固定資産税等の精算金は含めない
・住宅ローンなどの残債なし
・マイホームの3,000万円特別控除、相続空き家の3,000万円特別控除、相続税の取得費加算などは使用しない
・被相続人の取得時期を引き継ぎ、長期譲渡所得20.315%で試算
・2026年9月時点の制度・国税庁資料を基にした概算例
実際の取得費や税額は、購入時の資料、建物の構造や使用状況、取得関連費用などによって変わります。個別の税務判断は税理士または税務署へ確認してください。
購入価格2,000万円をそのまま取得費にはできない
今回の売買契約書では、土地1,200万円、建物800万円、合計2,000万円と確認できています。
ここで「2,000万円で購入したのだから、売却価格3,000万円から2,000万円をそのまま取得費として引けばよい」と考えると、建物部分の減価償却が抜けてしまいます。
土地と建物では、売却時の取得費の考え方が異なるためです。
土地は、原則として時間の経過による価値の減少を減価償却として取得費へ反映しません。
一方、建物は時間の経過や使用による価値の減少を、減価償却費相当額として取得価額から差し引きます。
相続したからといって、親が所有していた期間や建物の経過年数がリセットされるわけではありません。
土地の取得費は1,200万円
今回、契約書で確認できる土地の購入価格は12,000,000円です。
購入時の諸費用は比較を単純化するため加算しないので、今回の土地取得費は12,000,000円とします。
土地取得費 12,000,000円
木造建物は減価償却後の取得費を計算する
建物の購入価格は8,000,000円です。
今回の建物は木造で、自宅として使用していた非業務用の建物なので、償却率0.031を使います。
今回の減価償却費相当額は、次の式で計算します。
建物取得価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数
8,000,000円 × 0.9 × 0.031 × 25年
= 5,580,000円
減価償却後の建物取得費は、
8,000,000円 − 5,580,000円
= 2,420,000円
です。
・建物購入価格 8,000,000円
・減価償却費相当額 ▲5,580,000円
・減価償却後の建物取得費 2,420,000円
償却率は建物の構造によって異なります。また、賃貸や事業に使用していた建物は計算方法が異なるため、今回の木造自宅の計算をそのまま使うことはできません。
非業務用建物の経過年数に1年未満の端数がある場合は、6か月以上を1年とし、6か月未満を切り捨てます。減価償却費相当額は建物取得価額の95%が上限です。
参考:国税庁「建物の取得費の計算」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3261.htm
土地と建物の取得費は合計1,442万円
土地取得費と、減価償却後の建物取得費を合計します。
12,000,000円 + 2,420,000円
= 14,420,000円
今回、税金計算に使用する取得費は14,420,000円です。
購入価格の合計は2,000万円ですが、建物の減価償却を反映した結果、今回の売却時の取得費は1,442万円となります。
売却益は1,451万4,000円
次に、売却価格から取得費と今回計上する売却費用を差し引きます。
30,000,000円 − 14,420,000円 − 1,056,000円 − 10,000円
= 14,514,000円
・売却価格 30,000,000円
・取得費 ▲14,420,000円
・仲介手数料 ▲1,056,000円
・印紙税 ▲10,000円
・税金計算の対象となる売却益 14,514,000円
今回は特別控除を使わないため、この14,514,000円をもとに税額を試算します。
14,514,000円 × 20.315%
= 概算2,948,519円
所得税、復興特別所得税、住民税の端数処理などにより、実際の税額とは差が生じます。
今回の概算手取りは約2,599万円
売却価格から、今回計上した仲介手数料、印紙税、譲渡所得に対する税金を差し引きます。
30,000,000円 − 1,056,000円 − 10,000円 − 2,948,519円
= 25,985,481円
今回の条件での概算手取りは25,985,481円、約2,599万円です。
売却時の登記費用、測量費、解体費、残置物撤去費などは今回の計算に含めていないため、実際にこれらの費用が発生すれば手取りも変わります。
第1話との差は約262万円
第4話で最も比較したいのは、同じく特別控除を使わない第1話です。
第1話では購入価格を証明できず、売却価格3,000万円の5%である1,500,000円を概算取得費として計算しました。
・第1話
取得費 1,500,000円
税額 約5,573,217円
概算手取り 23,360,783円
・第4話
実額を基にした減価償却後の取得費 14,420,000円
税額 約2,948,519円
概算手取り 25,985,481円
差は、
25,985,481円 − 23,360,783円
= 2,624,698円
約262万円です。
ただし、「契約書が見つかれば必ず約262万円手取りが増える」という意味ではありません。
今回の設定では、実際の購入価格を基に計算した取得費14,420,000円が、第1話で使った概算取得費1,500,000円を上回ったため、税金計算の対象となる売却益が小さくなりました。
実際の差は、購入価格、土地と建物の価格内訳、建物の構造、経過年数、取得時の費用などによって変わります。
4話を比べると、何が手取りを変えている?
シリーズ4話の結果は次のとおりです。
・第1話 概算取得費5%・特例なし
概算手取り 約2,336万円
・第2話 Aだけが自分のマイホームの3,000万円特別控除を使用
2人合計概算手取り 約2,615万円
・第3話 相続空き家の3,000万円特別控除を使用
概算手取り 約2,893万円
・第4話 実額取得費・特例なし
概算手取り 約2,599万円
これは、どのケースが得かを比べるランキングではありません。
第2話は相続人自身の居住状況、第3話は相続空き家の特例、第4話は取得費の確認状況というように、それぞれ前提が違います。
第4話は第1話と同じ「特例なし」の条件で、取得費だけを変えた比較です。そのため、購入時の資料が税金計算へ与える影響を見るには、第1話との比較が最も分かりやすくなります。
4話を通して分かるのは、同じ3,000万円で売却しても、取得費の資料、居住状況、利用できる特例によって税金と概算手取りが変わるということです。
査定額だけで判断せず、相続・登記・税務・売却を分断せずに、売却前から必要な確認を進めることが大切です。
相続しても取得費と取得時期は原則引き継ぐ
相続した土地や建物は、原則として被相続人の取得費と取得時期を引き継ぎます。
今回も、親が25年前に購入した価格を基に取得費を計算し、親の取得時期から通算した所有期間によって長期譲渡所得として試算しています。
相続した時点の時価や相続税評価額を、そのまま売却時の取得費にするわけではありません。
なお、相続税の一部を取得費へ加算できる場合がある「相続税の取得費加算」は別の制度であり、今回は使用していません。
参考:国税庁「相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3270.htm
購入価格以外にも取得費に含められる場合がある
今回はシリーズを比較しやすくするため、土地と建物の購入代金だけを基に取得費を計算しています。
実際には、取得時に支払った費用のうち、取得費に含められるものがあります。
・購入時の仲介手数料
・一定の登記費用
・不動産取得税や印紙税
・設備費や改良費
・非業務用資産を相続した際に、相続人が負担した一定の登記費用
ただし、支払った費用がすべて取得費になるわけではありません。購入時や相続時の領収書などを残し、税理士または税務署へ確認してください。
また、売却価格の5%を概算取得費として使う場合には、相続人が支払った一定の登記費用などをさらに取得費へ追加できない場合があります。
参考:国税庁「取得費となるもの」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3252.htm
契約書が見つからなくても、すぐに5%と決めない
相続した実家では、購入時の売買契約書が見つからないこともあります。
ただし、契約書がないことだけを理由に、直ちに取得費を売却価格の5%と決める必要はありません。
まず、購入代金や取得時期を確認できる資料が残っていないか探します。
・購入代金の領収書
・購入時の精算書
・通帳や振込記録
・住宅ローン関係の資料
・登記事項証明書
・分譲会社、当時の売主や仲介会社などに残っている資料
このうち、売買契約書や領収書は購入価格を確認する中心的な資料です。
一方、通帳や振込記録、住宅ローン関係資料、登記事項証明書などは、それだけで取得価額を確定できるとは限りませんが、購入時期、支払状況、建物構造などを確認する補助資料になることがあります。
複数の客観的な資料を組み合わせて取得費を確認できる可能性もあるため、古い資料をすぐに処分せず、税理士または税務署へ確認してください。
また、売買契約書に土地と建物の価格内訳が記載されていない場合も、合理的な根拠なく金額を配分することは避ける必要があります。どのような方法で土地・建物の取得価額を確認するかは、税理士または税務署へ確認してください。
参考:国税庁「取得費が分からないとき」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3258.htm
シリーズ第1話
購入価格が分からず、特例も使わない場合
https://green-estate.jp/blog/20260904-7762/
シリーズ第2話
居住状況の違いで、検討すべき制度や手取りがどう変わるか
https://green-estate.jp/blog/20260905-7771/
シリーズ第3話
相続空き家の3,000万円特別控除を使う場合
https://green-estate.jp/blog/20260906-7775/
関連記事
横浜市で相続不動産を売却するなら|相続登記前に確認したい特例と期限
https://green-estate.jp/blog/20260823-7754/
自分に近いケースを確認する
1.購入価格が分からず、特例も使わない場合(第1話)
2.居住状況の違いで、検討すべき制度や手取りがどう変わるか(第2話)
3.相続空き家の3,000万円特別控除を使う場合(第3話)
4.購入時の資料があり、取得費と減価償却を計算する場合(今回の記事)
相続不動産の売却前に、価格と取得費の前提を整理したい方へ
相続不動産の概算手取りを考えるときは、売却価格だけでなく、購入時の資料がどこまで残っているかも確認したいところです。
まだ売却すると決めていない段階でも、想定売却価格や売却費用を整理し、購入時の資料を確認しておけば、税理士や税務署へ取得費について相談するときの前提が具体的になります。
個別の取得費や税額は税理士または税務署への確認が必要ですが、不動産売却側の価格・費用・物件情報は売却前から整理できます。
相続した実家・不動産の売却について相談する
https://greenestate.jp/consultation/#family-home
横浜市不動産売却相談窓口
住所:神奈川県横浜市金沢区寺前1-1-26-503
電話番号:045-752-9321
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